11/21/2011

アメリカの医療制度

初めに:これは在米歴半年の人間が書いた個人的な見解です。悪しからず。

アメリカの保険制度について引っ越してくるまではどうなっているのか全く分からなかったが、今大体そのシステムが見えてきた。日本は国民皆保険制度で保険対象の治療や薬は3割負担となっている。もちろん命に重いも軽いもないので、誰もがどこの病院でも治療をうけることができる。もちろん治療については国が決めた基準で請求することになっており、どこの病院でも大体同じ治療費である。ここに資本主義の介入はほとんどない。何人患者を見たか、いくらくらいの治療をしたかについて、医者の給料が変わることもない。もちろん病院が請求する金額は国が決めた絶対的なものであって、負けてくれることもないし、高額すぎることもない。

アメリカは医療制度も資本主義で成り立っている。そしてオバマ大統領がなんとか通した国民皆保険制度というのは今まで保険に入れなかった超低収入の家庭に適応されるもので、日本の定義とは異なる。(しかし見てもらえる医者は相当限られる。)したがって、ある程度の生活が送れる人は、次の2通りの方法で公営ではない保険に入る。ここで気をつけなければならないのが健康保険は義務ではないこと。入りたくなければ入らなくてもいい。しかし病気にかかったり事故にあったときには信じられないくらいの請求がされる。

それはさておき、その二通りの方法とは、
  民間の保険会社に加入
  勤務先(集団で入るのでグループと呼ばれる)の保険に加入

はもちろん入りたい保険会社を決めて個人と保険会社の契約になる。プランの内容とその月々の支払額は各州で決まっており、だいたい一律のようである。しかし、州によって金額が大幅に違なる。ニュージャージー州はニューヨークへの通勤圏でお金持ちの保守派の多い州なので、この金額が庶民価格ではない。私たち2人は健康なのでそれほど医者にかかることもなかろうということで、医者に見てもらえる回数が○回までは25ドル、それ以上になると○%というものに入った。保険の加入時に持病があればそれは保障対象外とされる。こんな内容なのに支払額はなんと月々600ドル。健康でも貯金がどんどんなくなる異様な状態だった。その後シアトルに引っ越したので今度はワシントン州内の保険会社と契約した。するとここはリベラルな改革派が多い州なので、同じような内容で月の支払額は比較的低く設定されており、2人で355ドルだった。このようにアメリカは、各地域に住む人が望むやり方で進めることになっているようで、この「州」という地用自治体の権限が非常に強い。法律も州によって違うし、税金も州によって高い州安い州がある。ちなみにここワシントン州は所得税がない。

の勤務先(集団で入るのでグループと呼ばれる)の保険に加入は、これも勤務先の選ぶプランが全く違うので、この保険内容は勤務先の会社間で天と地の差がある。しかしグループ内(社員間)で助け合うという構造で成り立っているので、①の個人で入る保険よりは割安になることが多い。この保険だが、私のいる会社は、よく知る人いわく、他と比べてめちゃくちゃ良いらしい。ほとんどの病気が20ドルの自己負担だけ。整体も保障対称なので20ドルのみ。しかも何回行っても自己負担額が増えることはない。予防的な内容、たとえば検診については全額会社負担となっているし、しかも歯科、眼科の保証もついていて、半年に1回のクリーニングは無料、治療しても2割負担のみ。先日同僚が歯の根元治療をした。個人負担額が200ドルということだったので全体的には1000ドルかかったことになる。治療内容的に考えて、この自己負担額はおそらくこれは日本と同額くらいと思われる。眼科についても、購入する眼鏡のフレーム、レンズ、検眼費用、コンタクトレンズも一定額は定められているが会社負担となっている。これは日本より優れているところ。これだけの内容で私の月々の支払額は会社が9割負担してくれるので30ドルのみ!信じられますか?

はっきりいって、たまたま幸運なことにこのような日系の会社に勤められたから良かったものの、そうでなければ安心して暮らせなかった。私は何かあればすぐに診てもらいたいほう。早期発見ということもあるし、自分で治すとか放置とか何か異変があったときそんなことをするのは不安でたまらない。

あるとき在米暦の長い同僚にこの質問をした。

「アメリカでは高額な治療費用を支払える富裕層と、ベネフィットの手厚い保険内容を提供してくれる会社に幸運にも出会えた人の健康は保障されているけれど、それ以外の人はどうやって暮らしているの?」

同僚は

「それはアメリカの永遠のテーマだね。」といった

はっきりいって、それ以外の人は絶対に病気ひとつすれば下手をするとすぐ何千ドルとかかる。理由は、アメリカは、治療費に上限がないので、各医者、各医院、各病院がそれぞれ治療費用を定められるから。しかも、治療を施せば施すほど医者の給料に反映されるようになっているらしい。しかも、彼らが請求する際には、少し値切られることを想定してそもそも高く請求してくるらしい。したがって、もし病院が患者に直接請求することがあれば、高すぎる、払えないといえば減額してくれることもあるらしい。信じられますか?

医者がこのように自らの利益のみを顧みて、商売っ気ありありの治療行為をするには、ある背景があるらしい。それは医療訴訟。周知のとおり、アメリカは訴訟社会。しかも弁護士は見返りを多く得るために、弁償額を信じられない額に設定して訴えてくる。医者はこの万が一(より確率は多いと思うが)に備えて、医療訴訟のための保険に入るらしい。そしてこれが高額だと聞いた。

日本を出たときいつも痛切に感じるのが日本の医療制度は素晴らしいということ。医療費の増大が国の予算を圧迫していると聞くが、それにしても基本的な考え方がしっかりしているので、北欧のように無料ではないけれども、妥当な素晴らしいものになっていると思う。何かあれば生活保護もあるし、その場合は医療費免除だし、何があっても誰でも最低限の暮らしは遅れるようになっていると思う。

でもアメリカという国はピルグリムファーザーズを筆頭に母国を捨ててすべての人が成り上った国。そしてレーガン以降、富裕層を守る税制改革がざくざくとされてしまったおかげで、富める者は末代まで努力なしで富める者でいることが可能だ。かつて累進課税というものがアメリカにも存在したらしい。その時の所得税率は50%、これがいまはたった13%らしい。相続税も日本のようには高くない。日本のように富の再分配はない。働かざるもの食うべからずという思想はない。

現在アメリカではウォール街を占拠せよというデモが各所で起こっている。私のいるシアトルでも毎日のように警官に伴われてデモ行進をしているのを見たし、あるときは催涙弾まで投下されたもみ合いになったらしい。彼らのやり方が功を奏すとは思わないが、気持ちが分からなくもない。成り上るための進学にローンを組んで、卒業してもそのローンの返済に追われる。卒業しても、失業率10%の今日なかなか仕事は見つからない。就職しても、日本と異なって会社はすぐに解雇だ人員整理だと社員を斬っていく。ちなみに教師も解雇される。デモをしているある人がテレビのインタビューに答えていた。「実は私は医者。夫は教師。でも夫は解雇され今は無職。私も医師免許があるからといって特段給料がいいわけではないし、いつ解雇されるか分からない。私たちも99%の一人。」そうそう、州によっては教育の予算削減で、教師を人員整理するそうだ。そうすると学校がますます荒れている。教育制度さえ狂うと這い上がることさえできないではないか。何もかも悪循環。もしかしてこれも富める者の仕組んだ構造??

オバマ大統領がこの閉塞したシステムを断ち切ってくれるのではないかと思ったが、保守派の市民や民間の保険会社は、金で政治家を国家をコントロールし、彼はその大きな抵抗力に勝てず、何の改革もできずにいる。アメリカ人のほとんどは自国の健康保険制度がどうしてこんなことになったのか嘆いているし、どうにかしてほしいと思っている。しかし、悪循環と利権で政治が固まりすぎて、これを改革するのはもう誰にもできないのではないかと思う。

自由な国アメリカは、資本主義と個人主義が行き過ぎた国にしか見えない。個人個人はすごくいい人が多い。接客をしていても、店員である私に人でなしな態度をとってくる人は本当に少ない。一人の人として尊重しながら接してくれる。道行く人もフレンドリーで、何度話しかけられたことか。道を聞くと本当ににこやかに教えてくれる。そして親切にして当然という雰囲気さえする。こういう面はすごく人間的でいい。しかし、アメリカの医療制度を考えたとき、こういう風に笑顔で感じよく私と話してくれる人の生活はどうなのだろうと考える。いつでも医者にいけるのだろうか。家族の誰かが病気になったとき全財産を投資しなくてもいい保険にちゃんと入れているのだろうかと。日本という比較対象を知ってしまったから私がこんなに心配するだけであって、もともとそんな優れた医療制度がない国に生まれ育ったアメリカ人はそんなものは心配の種ではないのだろうか?

アメリカ人のプライドは世界一なのに、内情は金と利権で、富裕層しか使えない、がんじがらめの医療制度になっている。

単純にこういうことをすれば少しまともになるのではないだろうか?訴訟の弁償額に常識的な上限を置いて、医療や政治から商業主義を取っ払う。これだけでどんなに人々が安心することか。アメリカ人のプライドは世界No1という。ここを変えなければそのプライドは内容のないものに過ぎない。逆に、ここを改革すれば、自国を心から愛す人がどんなに増えることか。私さえ、アメリカは素晴らしい国だと思えるようになると思う。本当にもったいない話だと思う。





シマウマな車。こういうところは自由でいいのにねっ。





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